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佐藤輝明選手のフォーム改良と成績低迷に対する仮説

おそらく多くの阪神ファンがやきもきしているだろう。

佐藤輝明選手の状態が上がらない。ひっかけたようなゴロが多く、三振が多い。ドライブライン・ベースボール(以下、ドライブライン)にてデータ解析を行い、フォーム改良を行ったにもかかわらずその成果が出ていない。打てないにも関わらずクリーンナップにいるため、チャンスで凡退し、チームの得点が増えない。

などなど、このような不満を抱いているのではないだろうか。

 

しかしながら、実は佐藤選手は不調なのではなく、フォーム改良をした結果このような形になっているのではないか。つまり、決して不調なのではなく、まだフォームが一軍レベルの生きた球に対してアジャストできていないだけなのではないか。

当然この答えはチーム関係者しか知る由はないのだが、我々ファンはもう少し見守ってもよいのではないだろうかと思い、筆を執った。(それはそれとして、打率が1割台でクリーンナップは厳しいのだが…)

2024年4月時点の佐藤輝明は運が悪すぎる

打球がヒットになるかどうかは次の要素が重要である。

  • 運(打球がヒットゾーンに飛ぶかどうか)
  • バットコントロールの良さ(狙ったところに打球が飛ばせるかどうか)
  • 足の速さ
  • 打球の強さ(≒速度)
  • 打球角度

これらを総合的に表したのがBABIPという指標である。

表1:佐藤輝明選手のBABIP推移

BABIP
2021 0.335
2022 0.315
2023 0.318
2024 0.264

これは執筆時点(4/26現在)の数値だが、前年より5%以上減少しており、打率への影響はかなり大きい。BABIPは一般的にツイてるかツイてないかという文脈で用いられる指標だが、もともとはピッチャー側の目線で使われる指標(非BABIPやDERとも言われる)で、大体3割程度(DERの場合は7割)に収束するといわれている。バッターの場合は上述した要素が絡みあうため、3割への回帰の傾向は弱まる。

したがって、佐藤選手はツイてないというのは間違いなく要因の一つではあるが、それ以外の要素が悪化しているがためにBABIPが悪くなっていると仮説を立てることができる。

バットコントロールの良さは指標化が困難で、検証できない。また、足の速さは大きな故障をしない限り大きく変わるということは考えにくい。

したがって続いて打球の速さについて確認していく。

実は年々良化している打球速度

次の表は佐藤選手の打球の強さ(≒打球速度)である。

表2:佐藤輝明選手の打球の強さの内訳

弱い 中程度 強い
2021 32.7% 29.1% 38.3%
2022 29.7% 33.6% 36.7%
2023 26.5% 32.8% 40.7%
2024 17.9% 39.3% 42.9%

明らかに弱い打球は減少し、強い打球が増えている。普通に考えれば打率は上がってもよいのである。しかしながらそうはなっていない。その理由は打球の角度、つまりゴロの打球が多いことにある。

今年の佐藤選手はゴロアウトが多い

次の表は佐藤選手の打球特性の内訳である。

表3:佐藤選手の打球特性内訳

ライナー ゴロ フライ
2021 8.7% 29.1% 62.2%
2022 8.3% 34.8% 56.9%
2023 10.5% 35.0% 54.4%
2024 1.8% 42.9% 55.4%

フライの割合は変わらないものの、ライナー性の打球が減少し、ゴロが増えている。ゴロの打球はライナー性の打球に比べると打球に追いつきやすく、ハードヒットしたところでアウトになりやすい。

ではなぜゴロが増えてしまっているのだろうか。ゴロが増えているということは、ボールの上部をバットで叩いているということであり、低めのストレートやフォークやスプリットなどの落ちる球に反応してバットが出ているのではないか。

もともとイメージとしてローボールを拾うのは上手いというものはあるが、佐藤選手がローボールが得意だからといって低めの球に手を出しまくっているというわけではないだろう。仮にそうだとすると、ローボールへのアプローチ技術が極端に悪化しているということであり、流石にそれは考えづらい。

そうなるとよりシンプルな理由として、選球眼の悪化であろう。

佐藤選手は選球眼が悪化した?

次の表は佐藤選手のボールへのアプローチ結果である

表4:佐藤選手のボールアプローチ結果

ボールスイング率 ストライクスイング率 見送りストライク率
2021 41.6% 77.0% 10.4%
2022 33.2% 73.5% 12.6%
2023 32.4% 73.5% 12.2%
2024 35.7% 67.6% 14.1%

明らかにボールスイング率が増えており、ストライクスイング率が減少している。また、投球ごとの見逃しストライクの割合も増えており、前年よりストライク/ボールの判断ができていないということになる。

ではなぜこの判断が悪化しているのだろうか。まず考えられるのは視力(動体視力含む)の悪化である。しかし、佐藤選手はまだ25歳であり、急激な視力の悪化が起こるような年齢ではない。

明確な回答はでないが、一つのヒントが次のデータにあるように思う。

佐藤選手のボールの目付け位置

次のデータは佐藤選手の打球方向である。

表5:佐藤選手の打球方向

引っ張り方向 センター方向 逆方向
2021 39.40% 38.20% 22.40%
2022 36.80% 35.30% 27.90%
2023 38.40% 39.30% 22.30%
2024 48.10% 32.70% 19.20%

これを見ると引っ張り方向が大幅に増加している。引っ張るということは打つポイントをピッチャー寄りにしなければ引っ張れない。これこそがドライブラインでヒントを得て、現在佐藤選手が行っている打撃改革の結果なのではないだろうか。

つまり、打つポイントを前に設定し、強い打球を右方向に引っ張り長打を量産する。ポイントを前にもっていけば、体のコンディションが落ちてスイングスピードが悪くなったり、スイング始動が遅れたとしても、センター方向や逆方向に打つことができ、不調期間を目立たなくすることができる。

そのデメリットとして、打つポイントを前にするということはストライク/ボールや球種の判断を早く行わなければならず、そこの判断と実際に投じられた球にずれがあるがために見逃しストライクやボールスイングや低めや落ちる球のひっかけが多くなっている。

以上がいくつかの指標を基に得た仮説である。

結論

様々なデータを通して、

  • 佐藤選手の成績不振は運の悪さと打撃スタイルの変更
  • 新しい打撃スタイルは打つポイントを前にして引っ張り方向の打球を増やすスタイル
  • そのためにボールの判断を早く実施しており、その判断と実態に乖離があるためゴロ打球が増加し、成績悪化につながっている

という仮説が得られた。実際のところ、これが真か偽かはチーム関係者しかわからないのであくまで仮説の域を出ないのだが、皆さんはどのように感じただろうか。

この挑戦をさらなる飛躍のために応援したいだろうか。

ボールのコンタクトに集中してアベレージを残してほしいだろうか。

きっとそれぞれの想いはあるだろう。

私筆者の想いとしては、アベレージヒッターは近本選手、中野選手という傑出した1,2番がいる以上、小さくまとまるのではなく、スケールの大きい長打を量産する打者を目指してほしい。なのでこの取り組み自体は応援したいと思う。

 

 

※データはすべてデルタ社より引用